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東京地方裁判所 昭和43年(借チ)3号 決定 1968年6月26日

申立人 北島一男

右代理人弁護士 小林優

相手方 野村庄三郎

右代理人弁護士 浅川秀三

主文

本件申立を棄却する。

理由

本件申立の趣旨及び理由は、

「申立人は昭和二三年七月八日頃、相手方の先代野村六三郎から、その所有に係る東京都新宿区戸塚町二丁目一〇四二番宅地一一九六・六九平方米のうち六六・一一平方米(以下本件土地という)を普通建物所有の目的で、期間は昭和四三年七月八日までと定めて賃借した。なお、申立人は前借地人血脇啓次郎から地上建物を買受け、昭和二三年七月八日右建物につき所有権取得登記を経由するとともに、前記賃貸借契約を結んだものであり、その後相手方は右土地の所有権を取得するとともに賃貸人の地位を承継したものである。

ところで、本件土地は、右契約の後昭和二五年一一月二三日準防火地域に指定された。また、右契約当時本件土地の附近は早稲田大学に近い閑静な住宅地であったが、現在では商業地域として発展し、商店が立ち並んでいる。

右の事実によれば、本件借地契約については、契約後の事情の変更により、これを堅固建物所有目的とするを相当とするに至ったものというべきであるから、借地条件の変更を求めるため本申立に及んだ。」というのである。

これに対する相手方の主張の要旨は、

「申立人がその主張のとおり本件土地につき借地権を有することは認めるが、その主張のように借地条件を変更すべき事情の変更はない。」というのである。

よって検討するに、本件の資料によれば、申立人はその主張の経緯によって、本件土地につき相手方との間に普通建物所有を目的とし、期間は昭和四三年七月七日までの賃借権を有するものと認められる。

そこで、以下に、借地法第八条の二第一項の要件があるかどうかについて考察する。

本件附近の土地が契約当時閑静な住宅街であったことは、当事者双方の陳述その他の資料によってこれを認めることができ、また申立人主張のとおり本件土地が準防火地域に指定されたことも資料によって認めることができる。

さらに本件の資料によれば、次の各事実が認められる。

1、本件土地は国電高田馬場駅から東方神楽坂方面に通ずる大通り(いわゆる早稲田通り)を同駅から東方に約一キロメートル進んだ地点において、北方に分れる道路を約三〇メートル入った三叉路に面する角地であり、前述のように準防火地域に指定されているほか、住居地域、第一種文教地区容積第三種地区とされている。

2、本件土地の西側及び南側にはそれぞれ道路があり、南側本件土地の面する道路に沿って小規模の商店が並んでいるが、その北側は住宅地となっており、西側の道路は幅員三メートル弱で、北側住宅地に通じ、前記南側の道路も幅員四米弱で建築基準法第四二条第一項に定める基準に満たないものである。そして、この南側道路に面する本件土地の隣接地には前述のように店舗が並んでいるが、これらは木造建物である。

3、前述の早稲田通りは、幅員も広く、交通頻繁な繁華街で堅固な建物もかなり多いが、そこから入った狭い道路に沿う本件土地の附近は、これと全く条件を異にし、近い将来堅固建物の並ぶような繁華街が形成されるものとも見られない。

しかして本件土地の地積及び前面道路の幅員に照らし、建築基準法上の制約を考えると、本件借地上に建てられるのは通常二階建までであって、三階建とするには特殊の設計をしなければならないと思われ、右道路に沿う他の建物もすべて二階建以下であり、申立人の予定する建築も二階建店舗兼居宅というのである。本件土地は既述のとおり準防火地域に指定され、これに伴う建築基準法上の制約を受け、三階建以上の建築は耐火もしくは簡易耐火建築物としなければならないが、二階建以下であれば、外壁、軒裏を防火構造とする木造の建物で差支えないわけであり、現在の東京都内における準防火地域内の建物の多くはかようなものであって、本件土地の附近もまた同様の状況にあると認められるのである。

右の点及び前述した附近の土地の状況を合わせ考えると、本件土地については、現に借地権を設定するとした場合、必ずしも堅固建物所有目的とすることを相当とするに至っているとはいえず、借地法第八条の二第一項の要件を充たさないものというべきである。

よって、本件申立を棄却することとし、主文のとおり決定する。

(裁判官 安岡満彦)

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